AIセキュリティ / AI SECURITY / BROWSER EXTENSION
Googleに削除されたAI拡張機能がストアに復帰 — 会話窃取の次は「アフィリエイト不正」、更新のたびに広告タブを開く仕掛け(Netskope分析)
Netskope Threat Labsは2026年8月11日、AIチャットの会話を窃取したとして2026年1月にGoogleがChrome Web Storeから削除した拡張機能「AI Sidebar with DeepSeek AI」が、ストアに再掲載された上で新たな不正機能を仕込んだ状態で配布されていると明らかにした。約2週間「正常な」アップデートを配って信用履歴を作った後、21行のコードを追加して更新・アンインストールのたびにアフィリエイトリンクを開く。現在も1日数百人が悪性版を取得しているという。
AIチャットの会話を盗むとして一度は追放されたChrome拡張機能が、ストアに戻ってきた上で、別の不正機能を仕込まれて再び配布されている。クラウドセキュリティ企業 Netskope の脅威分析チーム「Netskope Threat Labs」が2026年8月11日に公開した分析で明らかになった。
問題の拡張機能は 「AI Sidebar with DeepSeek AI」。30万以上のインストール数と4.6の評価を得ていた人気のAIアシスタント系拡張機能だ。2026年1月、AIの会話内容を窃取していたとしてGoogleがChrome Web Storeから削除した。ところが同年7月、再びストアに掲載され、現在は不正コード入りの新版が配布され続けているという。
第一幕:会話の窃取(2025年〜2026年1月)
この拡張機能の不正は、セキュリティ企業 OX Security が2025年12月に公表した調査で明らかになっている。
1.7.xより前のバージョンは、ページ上に表示された ChatGPTやDeepSeekの会話内容を収集し、Base64でエンコードした上で「deepaichats[.]com」と「chatsaigpt[.]com」に定期的に送信していた。会話には、仕事のコード、顧客情報、機密の相談内容などが含まれ得る。Netskopeはこの2つのドメインを現在「C&Cサーバー」「悪意サイト」として分類している。
Googleは2026年1月にこの拡張機能を削除した。窃取コードは1.7.xで取り除かれ、拡張機能自身のプライバシーポリシーもこの事実を認める記載に変わった。
第二幕:2週間の「善人」期間
ところが事態はそこで終わらなかった。2026年7月、同じ拡張機能IDでストアに再登場したのだ。
Netskope Threat Labsの分析によると、運営者は次のような手順で再犯に及んだ。
- 2026年7月20日〜31日 — 機能は正常で、不正コードを含まない v1.7.2.0 を配布。約2週間、きれいな更新履歴を積み上げる
- 2026年7月末 — 不正コード入りの v1.7.3.0 に差し替え
v1.7.2.0とv1.7.3.0の差分は、あるJavaScriptファイル(blueBackground.js)へのわずか21行の追加だけだった。コードには「あえてインストール時には実行しない」という趣旨のコメントまで残されており、意図的な設計であることがうかがえる。インストール時に実行すれば1ユーザーにつき1回しか不正が発生しないが、更新のたびに実行すれば、運営者が更新を配るたびに不正が発生する。更新頻度は運営者側で自由にコントロールできる。
第三幕:更新とアンインストールを「収益化」
v1.7.3.0が実行する不正は、かつての会話窃取とは別種の「アフィリエイト不正」だ。
拡張機能のサービスワーカー(バックグラウンド処理)は、Chromeが更新を通知するたびに、パートナーURLを前景タブ(ユーザーが目にするタブ)で自動的に開く。ユーザーの操作は不要だ。リンクは短縮サービスBitlyを経由して「Buzzy」というAI動画生成サービスに飛ぶ。Buzzyは紹介経由の契約に最大30%の成果報酬を支払う公開アフィリエイトプログラムを運営しており、Netskopeは「サービス側がこの不正な誘導を知っている形跡はない」としている。
さらに、アンインストール(削除)時にも同じリンクを開くようになっている。Chromeには拡張機能ごとにアンインストールURLを1つだけ設定でき、「最後に書いたものが勝つ」仕様だ。拡張機能は正規のコードが自前のURLを設定した後に、5秒間隔で2回、アンインストールURLを上書きする。ユーザーが拡張機能を削除するその瞬間にも、アフィリエイト収益が発生する仕掛けだ。
会話窃取コードはv1.7.3.0からは取り除かれているが、Netskopeは、**「同じ配布経路は、運営者が次に選ぶどんなコードも運べる」**と指摘する。アフィリエイト不正は現時点では「低い深刻度」だが、今回の仕組みはそのまま情報窃取やその他の不正に転用可能だ。
運営者の正体
拡張機能のストア掲載情報では開発者は「DeepSeek AI」名義で、連絡先はinfo@deepseek[.]aiとされている。しかしパッケージ内部のフッターには「Developed by Extchange.com | Technology partner: aitopia.ai」と記載されており、実態は「Extchange.com」という2024年2月に登録されたドメインの運営者とみられる。DeepSeek本体とは無関係の可能性が高い。
Netskopeはこの運営者像を「匿名性ではなく『もっともらしさ』で隠れるタイプ」と評している。実際に機能する製品に収益フックを後付けする手法は、AIサービスをかたる拡張機能に共通するパターンだ。
なぜ問題か:ストアの審査だけでは防げない
今回のケースの本質は、Googleが一度削除した拡張機能が、審査を通って再掲載されたことにある。不正コードは「正常版を2週間配る」だけで十分に信用を積めるため、自動審査やレビューでは見抜けない。Netskopeは、企業環境の保護を「マーケットプレイスのキュレーション任せ」にすることはもはやできないと警告する。
実際、Netskopeの観測では1日あたり数百人が悪性版を取得しており、前バージョン時の2倍のペースで増加中だという。再掲載が主因で、自動更新が次いでいる。
今何をすべきか
- 拡張機能IDを確認して削除する — 管理対象のブラウザから、拡張機能ID
inhcgfpbfdjbjogdfjbclgolkmhnooop(AI Sidebar with DeepSeek AI)が入っていないか確認し、あれば即時削除する。強制インストール(force-install)や許可リスト(allowlist)に登録していないかも確認する - 許可リスト方式で管理する — 組織のブラウザで「許可された拡張機能IDだけが動作する」運用に切り替える。Netskopeは拡張機能の許可リスト・ブロックリスト・強制インストールをブラウザ層で強制できるとしている
- AI関連の拡張機能は特に注意する — AIチャット支援を名乗る拡張機能は人気が出やすく、悪用の標的になりやすい。「公式のAIサービスが本当に配布しているか」を公式サイトで確認してから導入する
- 更新内容を監視する — 拡張機能の更新履歴が急に頻繁になったり、挙動が変わったりした場合は、権限と挙動を再確認する
一度Googleに削除された拡張機能が、2週間の「正常な」期間だけで再掲載に成功した事実は重い。ストアの審査は「最低限の関所」であって、完全な安全装置ではない。ブラウザ拡張機能の管理を、社内ポリシーとして決めておくことが、今できる最も確実な対策だ。
出典: Netskope Threat Labs — AI Sidebar Extension Monetizes Its Own Updates / OX Security — Malicious Chrome Extensions Steal ChatGPT Conversations
この記事は、公開情報と編集部の調査・知見をもとに構成しています。内容は公開時点の情報に基づく解説であり、個別の環境への診断・対応を保証するものではありません。重要な判断では、記事内の出典や各提供元の最新情報もご確認ください。