脅威動向 / THREAT / MOBILE EXPLOITATION
iOSエクスプロイト「Coruna」「DarkSword」が犯罪組織に拡散 — 配布ドメイン約17,000件、iVerifyがBlack Hat USA 2026で公表
国家機関や商用スパイウェア企業だけが持っていたとされるiOSの完全乗っ取りエクスプロイト「Coruna」と「DarkSword」。iVerifyは2026年8月6日のBlack Hat USA 2026で、両者の第2世代を配布するドメインが約17,000件に上ると発表した。犯罪組織が検知回避などを改良した亜種を作り、一般のiPhone利用者が標的になりつつある。
モバイルセキュリティ企業iVerifyは2026年8月6日、米ラスベガスで開催されたセキュリティカンファレンス「Black Hat USA 2026」で、iOS向けエクスプロイトキット「Coruna」と「DarkSword」の第2世代を配布するドメインが約17,000件に上るとの調査結果を発表した。両キットは元々、国家機関や商用スパイウェア企業だけが使う「国家レベルの道具」とみられていた。それが今、組織的なサイバー犯罪グループの手に渡り、改良されながら広範囲の配布網で使われている。
iVerifyでリサーチ部門バイスプレジデントを務めるMatthias Frielingsdorf氏は、同会議で「わずか5分でiOSエクスプロイトチェーンを展開できてしまう。これは極めて危険で、拡散しやすい」と指摘したとされる。本記事では、両エクスプロイトキットの仕組みと、公開された調査結果の要点を整理する。
2つのエクスプロイトキットとは
エクスプロイトキットとは、ソフトウェアの脆弱性(弱点)を悪用して不正プログラムを送り込むための「攻撃ツール一式」だ。iOS向けの本格的なものはこれまで、特定の個人を狙うスパイウェア(監視ソフト)の文脈で語られることが多かった。CorunaとDarkSwordは、その常識を変えた事例として注目されている。
Coruna(iOS 13〜17.2.1が標的)
Corunaは2026年3月3日、Googleの脅威情報チーム(GTIG)が公開した。iVerifyも同時期に独自解析を発表し、内部名を「CryptoWaters」と呼んだ。23件の脆弱性を5つの完全な攻撃チェーンに組み合わせ、iOS 13〜17.2.1のiPhoneを標的とする。
- 攻撃は水飲み場型(改ざんされた正規サイトを訪れただけで感染する方式)で、Safariのリモートコード実行(遠隔から不正コードを実行する攻撃)から始まる
- 感染後は、電源管理デーモン(
powerd)や位置情報デーモン(locationd)など正規のシステムプロセスにコードを注入するため、検知が難しい - メッセージ、写真、メモ、アプリデータへのアクセスに加え、暗号資産ウォレットの窃取機能を持つ
- 開発費は3,000万〜4,000万ドルと推定され、政府系請負業者が開発し、ゼロデイブローカー(未修正の脆弱性情報を仲介する業者)経由で販売されたとみられる
Corunaの基盤となった古い脆弱性は、Appleが2023年と2024年に修正済みだ。
DarkSword(iOS 18.4〜18.7が標的)
DarkSwordは2026年3月18日、iVerifyとGoogle、Lookoutが共同で公表した。2025年11月ごろから実戦使用が確認されており、ウクライナ、サウジアラビア、トルコ、マレーシアの利用者が標的となった。iVerifyの解析では、攻撃に使われたサイトにウクライナ政府のサーバー(.gov.ua)を改ざんして悪用した例も含まれていた。
- 6件の脆弱性を2つの攻撃チェーンで連鎖させ、完全な乗っ取りに至る。うち3件はゼロデイ(当時未修正)だった
- 標的はiOS 18.4〜18.7。iVerifyは「このバージョン帯は最大2億7,000万台の端末で使われている可能性がある」と推定した
- 窃取対象はWi-Fiパスワード、テキストメッセージ、通話履歴、位置情報の履歴、ブラウザ履歴、SIM・通信事業者データ、健康・メモ・カレンダーのデータに加え、暗号資産ウォレット
- 名称は、インプラント(感染後に仕込まれる不正コード)内の変数名
DarkSword-WIFI-DUMPに由来する - 完全にJavaScriptで書かれており、専用の悪性プロセスを起動せず正規の仕組みに寄生する「ファイルレス」に近い挙動をとる
Appleは報告を受けて脆弱性を段階的に修正し、iOS 26.3のリリースでDarkSwordが使うすべての脆弱性を修正済みだ。GTIGは、攻撃に使われたドメインをGoogle Safe Browsing(危険サイト警告機能)のリストに追加している。
DarkSwordの感染チェーン
GTIGの分析によると、DarkSwordの感染は次の順序で進む。
- リモートコード実行 — 改ざんされたサイトをSafariで開くと、JavaScriptCore(SafariのJavaScriptエンジン)のメモリ破損の脆弱性(CVE-2025-31277、またはiOS 18.6以降ではCVE-2025-43529)を悪用して不正コードを実行する。これらは
dyld(プログラム読み込み機構)のポインタ認証コード(PAC)のバイパス(CVE-2026-20700)と組み合わせて使われる - サンドボックス脱出 — WebContentサンドボックス(ブラウザ内の隔離領域)から抜け出すため、ANGLE(グラフィックス変換ライブラリ)の脆弱性CVE-2025-14174、続いてXNU(iOSの中核カーネル)のメモリ管理の脆弱性CVE-2025-43510を悪用する
- 権限昇格と最終ペイロード — XNUカーネルの競合状態(タイミングのずれを突く脆弱性)CVE-2025-43520で管理者権限を取得し、最終ペイロードを展開する
GTIGは、DarkSwordの感染後に展開されるマルウェアとしてGHOSTBLADE、GHOSTKNIFE、GHOSTSABERの3ファミリーを確認している。また、ロシアの諜報活動が疑われるグループ「UNC6353」が、以前はCorunaを使っていたのをDarkSwordに切り替えて水飲み場攻撃を続けていることも判明した。
犯罪組織による「第2世代」への進化
Black Hat USA 2026でiVerifyが強調したのは、**エクスプロイトの「産業化」**だ。Frielingsdorf氏は、公開後に脅威アクターがCorunaのフレームワークを改変し、次のような新しい亜種を生み出していると説明した。
- ジェイルブレイク・仮想化検知の強化 — 解析環境で動かすと動かないようにする耐解析機能
- 暗号化の改良 — 検知されにくくするための通信・ペイロードの暗号化
- Telegramを狙うインプラント — メッセージアプリのデータ窃取
- 新たな永続化メカニズム — 再起動後も感染を維持する仕組み
さらにiVerifyとPalo Alto Networksは独立に、本来は別系統だったDarkSwordとCorunaの両方を同時に使う脅威アクターを観測した。両者の技術を組み合わせたハイブリッド亜種を、iVerifyは非公式に「Darkuna」と呼んでいる。
拡散の背景には、エクスプロイトの入手ハードルが下がったことがある。iVerifyの調査では、DarkSwordのエクスプロイトチェーンの一部がGitHub上に公開された。Corunaのインフラは中国の組織的犯罪グループによる利用が確認され、DarkSwordは世界各地の複数の運用者によって展開されている。iVerifyは「低レベルの犯罪者や専門性の低い攻撃者が、高度なエクスプロイトツールにアクセスできる時代に入った。マルウェア・アズ・ア・サービスやランサムウェア・アズ・ア・サービスと同じ構図だ」と警鐘を鳴らす。
今、何をすべきか
CorunaもDarkSwordも、修正済みの脆弱性を狙う攻撃だ。つまり、iOSを最新版に保つことが最大の防御になる。
- iOSを最新版(26.3以降)へ更新する — DarkSwordが使う脆弱性はすべてiOS 26.3で修正済み。古いiOSのまま使うと、改ざんされたサイトを訪れるだけで感染する可能性がある
- サポート対象外の端末は使わない — iOS 13〜17系を標的にするCorunaの存在を踏まえ、OSアップデートが受けられない古いiPhoneは業務利用を避ける
- 不審なサイト・通知に注意 — 水飲み場攻撃は「普通のサイト」を装う。身に覚えのないリンク、特にSnapchat風などの偽装ページにはアクセスしない
- 企業はモバイル端末を監視対象に加える — iVerifyは「モバイル端末を第1級のエンドポイントとして扱い、挙動監視と可視化を導入すべきだ」と提言する。従来のMDM(モバイル端末管理)では、正規プロセスに寄生する攻撃は見えない
- Appleの脅威通知を受け取る — スパイウェア感染の疑いがある場合、Appleは該当ユーザーに通知を送る。無視せず、指示に従って対応する
国家レベルのエクスプロイトは、もはや「特定の要人だけの問題」ではない。一般のiPhone利用者が標的になる時代に入った。まずはOS更新、そして企業はモバイルの可視化から始めるのが現実的な第一歩だ。
出典: Google Threat Intelligence Group — The Proliferation of DarkSword: iOS Exploit Chain Adopted by Multiple Threat Actors(2026年3月19日) / iVerify — Inside DarkSword: A New iOS Exploit Kit Delivered Via Compromised Legitimate Websites(2026年3月18日) / iVerify — iVerify Details DarkSword, Second Mass Attack Against iOS Disclosed in Two Weeks(2026年3月18日) / iVerify — Coruna: Inside the Nation-State-Grade iOS Exploit Kit We’ve Been Tracking(2026年3月3日) / iVerify — The Industrialization of Mobile Exploitation Has Begun(2026年3月30日) / iVerify — Black Hat USA 2026セッション案内(2026年8月6日実施)
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